title :   ブレーダーの「お勉強」
「甘い甘いものです」を目指したつもりが……







明かりを奪われた寝室。

マンションの外壁を照らす街灯のみが、僅かに差し込む仄暗い部屋。

光を受けて、壁に蠢く2つの影。







「レイ、力を抜け」

うつ伏せに腰を高く上げさせられ、僅かに身体が震えるレイに重ねてそう言いながら、カイはじりじりと身体の中心を腰の内側に集めると、少しずつ前方に傾ける。すでにほぐれ切っているはずの窄まりの、ごつごとつした肉質が亀頭を押し戻すように当たってくる。

「…くっ…」

その抵抗感にカイは強引に、よりいっそうの力を込めて腰をぶつけ、押し返す。

みりっ、という音が下半身からじかに頭まで響いてくるように感じながら、亀頭部はずるずるとレイの体内に押し込まれて行った。

「ああぁ……入……入ってくっ……」

レイはぞくぞくと全身を震わせながら、必死に枕を抱き締めつつ脅えたような声を漏らしだす。

「ふあっ!」

狭い部分をくぐり抜けると、あとは抵抗もやや緩やかになり、カイは肉棒を一気に奥まで挿入していった。本来、そのような用途で用いられる目的ではないレイの秘所は、カイの決して短いとは言えない硬直をほとんど全て受け入れ、根元に親指ほどの幅だけを余して、ようやく硬い部分に行き当たった。

「くぅぅっ……あぅっ!!」

こつん、と直腸がせばまった部分に硬直が突き当たる衝撃感に、レイは鳴き声をあげ、ひくっと大きく背中をのけ反らせた。

「…少しは声を落とせ」

「そっ…そんな事……言っ……あぁっ!!」

身体を貫かれて動きに不自由しながらも、レイはもたげた首を懸命にねじ曲げてカイの方を振り向き、抗議する。

「…動くぞ」

カイはレイの柔尻を軽く叩くと、かすかに腰を動かして直腸に収まった硬直を揺すり動かす。レイは目を閉じて枕を顔に押し付けながら、その存在をしっかりと知覚しようとしていた。

「…ぁぁっ……カイィ…」

レイはカイの感覚を身体中で確かめながら、自分からも腰を動かし始める。

性器でも何でもない筈のレイの直腸は、普段指に感じるよりも一段と熱く、自身の意識とは無関係に潤滑剤でまみれた腸壁が蠢き、カイの肉茎を擦り回す。何より根元をほぼ括約筋そのもので絞り上げるように、カイの硬直を締め付けていた。

「…レイ…もう少し…力を抜け」

空いた右手でレイ自身を弄りながらやんわりと諭す。

「…ちっ…注文…の……多い…奴……だなっ!」

カイの動きに合わせ、レイの口から文句と喘ぎ声とが複雑に入り交じった言葉が溢れだした。

「ひゃぅっ!」

レイの陰茎を握り締めていたカイの掌が、上下にゆっくりと摩るよう動き始める。

レイはいっそう激しく身体をひくつかせ、その痙攣が直腸の中にまでも伝わっていった。その途端、カイのものは強烈な力で、まるで熱い粘膜でできた手袋で思い切り握られでもしたかのように締め上げられてしまっていた。

「……!!」

締め付けは一瞬だったが、声にならない絶叫を発しながら、カイは壮絶な感覚に頭の中が全部裏返るような気がして、視界が暗転するような錯覚さえ覚えていた。

「あふぅっ……カイッ……カイ…カイィ……」

レイは熱にうかされたようにカイの名前を呼び続け、強烈に肉茎を絞り上げた直腸の壁が、ゆっくりと緩んでいく。

ほうっと息をつく間もなく、今度はどういう作用でか粘膜が蠢きながら、奥の方に吸い込まれる風な感覚がカイ自身に襲いかかり、その部分の敏感すぎる神経をさらにきつく苛み始めた。

(…このまま、では…)

引きちぎられてしまう。あるいは飲み込まれてしまう。

普段であれは考えもしない不合理な恐怖感だが、愉悦を越えたあまりに鮮烈な反応の連続で、さしものカイも冷静さを失っていた。

動物的な反射でもってほとんど無意識に両手でレイの腰を強く掴み、強引に肉棒を抜き去ろうとしかけたまさにその時であった。

「……!!」

またも声にならない悲鳴を上げつつ、瞼の裏がぱっと赤く染まるのを覚えながら、カイは自分の肉体がずるり、と固まりのまま抜き取られていくのを感じていた。

「……ぁっ、熱いっ!」

それが前触れもない突然の射精であるとカイがようやく気づいたのは、レイの叫び声に耳を刺激されての事だった。

「……あぁっ……カイが……中に…………」

「…くっっ!」

瞼を何度も瞬かせ、遠ざりかけた意識を取り戻しながら、カイはなおも続く放出感に、歯を食いしばって耐えた。

「…ぁ…ぁっ……気持ち…いぃ……」

何とか気を逸そうと、再びレイの熱棒に手を添える。

「やっ!触っ、ちゃっ、カイィっ!!」

わずかにカイの手が触れた刹那、射精を続けるカイ自身の根元が緩急をつけて締め付けられるのと同時に、レイの肉棒から白濁した熱い液体が飛び出した。

「あっ、あぁっ、ああぁぁっ!!」

シーツに向けて幾度となく放たれたレイの迸りは、透明な染みをいくつも作っていく。

カイは射精の快感に浸りながらも、肉茎で粘膜をこすり上げもしないうちに絶頂を迎えてしまったことに、何となく納得できないような複雑な気分を味わっていた。

カイの表情がほんの一瞬僅かに陰る。

「……カイ…?」

絶頂を迎えはぁはぁと荒い息をつきながら、心配そうにカイを見つめるレイ。

「…何でもない。気にするな」

カイはそう言うと、レイの身体から自身の肉棒を抜きだした。レイが甘い声をあげるのと同じくして、ぽっかりと開いた黒い口から、カイの放った白い精がゆっくりと溢れ落ちて行った。









後始末を終え、寄り添うようにカイの腕に抱えられ、二人並んでベッドに横たわる。

既にカイは規則正しい寝息を立てていたが、珍しいことにレイが金の両眼でじっとカイの顔を見つめていた。

(……カイのあの表情……一体何だったんだろう…)

ほんの一瞬わずかに陰った、二人きりの時には決して見せることのなかったカイの表情が頭から離れなかった。

(…何かしてしまったのだろうか…)

聞いてみようと思っても、当人は既に夢の中。もし仮に起きていたとしても、「何でもない」と再度言われるのは目に見えている。

(……あれ……カイが…何か言ってたような…)

そういえば「声を落とせ」「力を抜け」…そう言われた時に、ちゃんと反応……できた覚えが無い。むしろできなかった事でカイに苦痛を与えてしまったのかも知れない。

(……もしかして……呆れられた?)

レイの顔が一気に蒼ざめる。カイに嫌われたと思うだけで、心が押し潰されそうな悲鳴を上げている。

(なっ、何とかしなくちゃ…何とか……)

レイは悪い考えを追い出すように何度も頭を振った。

(……でも、どうやって…?)

カイの温もりを肌で感じながらも、心はずっと遠くへ離れてしまったような奇妙な寂しさに襲われ、レイは不安を断ち切るように目を瞑った。









翌朝、普段ならば一日カイの部屋で過ごすのだが、昨夜の不安がどす黒く胸の中に渦を巻いており、とてもそのような気分にはなれない。

レイは「用事があるから」とカイのマンションを早々に去り、あてもなく街中を歩いていた。

普段なら食べ物を物色しながら歩くアーケードも、今日はとてもそんな気分ではない。腕を組み、俯きながらただ歩きまわっている。

レイが一晩悩みに悩んで出した答え。それは、

(カイは、行為に不満なんじゃないか?)

昨日の行為を再度思い出し、レイの足が止まる。

(…ちゃんとしないと…飽きられてしまう…?…そんな…そんなのは…いやだ)

「あ、レイ~~!」

(…カイと離れたくない……でも…どうすれば…)

思考の迷宮に入り込んでいたレイには、周囲の音が全く聞こえておらず、自分の名前を呼ばれた事にすら気が付いていなかった。

ぐい、と不意に頭が引っ張られる感覚に後ろを振り向くと、マックスがレイの黒髪を握り締めながらふるふると手を振っていた。。

「何度も呼んだんだヨ~」

「…ぁ、あぁ、マックスか。すまない」

「どうしたのレイ?今日はカイと一緒じゃ無かったノ?」

「う、ぁぁ…」

マックスにはカイとの関係を知られているとはいえ、大っぴらに吹聴することでもない。どう言ったものかと口籠もってしまう。

「…カイとケンカでもシタ?」

「喧嘩なんか…してない」

「そうネ。ケンカだったらレイはもっと元気だものネ~」

「どういう意味だ?」

マックスがレイの耳元に口を寄せ、小声で囁く。

「今日のレイは『カイの事で悩んでマス』っていう顔してるヨ」

「ぇぇっ!?」

それほど表情に出ていたのか、とレイは慌てて顔のあちこちを触り、体裁を繕おうとする。

「冗談ダヨ!レイ」

「……マックスぅ…」

ハハハと笑うマックスとは対称的に、情けない声を出しがくりと項垂れるレイ。

「…デモ、何かあったんでショ?相談に乗るヨ」

「そうですよ。BBAチームの危機を黙って見ている訳にはいきません」

全く意識のしていない方向から突然声を掛けられ、慌てて振り向くレイ。

「うわっ、キ、キョウジュ?いつからそこにっ!?」

「キョウジュ?最初っからボクの後ろに居たネ」

「これは重症ですね………立ち話も何ですからひとまずどこかに入りましょう」

「OK!」

「ちょ、ちょっと待…」

口を挟む前に両腕を二人に抱えられてしまい、無理やり振りほどく訳にも行かず、レイは人混みの中をずるずると引きずられて行った。









「そういえば、タカオは一緒じゃなかったのか?」

朝食代わりのハンバーガーを頬張りながらレイが疑問を投げかける。

「タカオの家に行ったら、まだ寝てたネ」

「かえって好都合でしたね。ここにタカオが居たら話がややこしくなるだけです」

それは確かに、とレイは心の中で呟いた。自分のことで何かとカイに張り合うタカオを見ているだけに、今回のことが知れたらどうなるか、容易に想像ができる。

「…さて」

レイがあらかた食べ終えるのと同じタイミングで、キョウジュが紙カップをテーブルに置いた。

「カイと何があったんですか?レイ」

「……だから、何も…」

「じゃァ、さっきはどうしてカイの事で悩んでたノ?」

「………ぁ、そっ……それは……」

いつもの事ではあるものの、カイの事を問われ激しく動揺するレイ。

「…よく聞いてください、レイ」

キョウジュがレイの顔をまじまじと見つめる。

「一度関係が変にこじれてしまうと、後から修復するのはとても難しいんです。レイはカイとそうなってもいいんですか?」

「うぅっ…」

触れられたくない痛い所を突かれ、言葉に詰まる。

「何があったかわからないケド、今ならまだ十分間に合うヨ」

「そうですよ。できる限り私達もフォローしますから、何があったか話してください、レイ」

…カイに嫌われたくない。カイの側に居たい。

その為ならどんな事だって厭わない。

「……じ、実は………その………」

レイはおずおずと口を開き、昨日の出来事をゆっくりと説明し始めた。




Π




「……それで……カイが…その……満足……してないんじゃないかと…」

「不安だという事なのですね」

キョウジュの言葉にこくん、と真っ赤に色づいたレイが頭を垂れる。

「…ウーン」

マックスが首を傾げながら唸り声をあげた。

「そんなコトナイと思うけどネー?」

「私にはそういう方面はちょっとよくわからないのですが」

キョウジュが冷めかけたコーヒーを一口啜り、喉を潤す。

「仮にそうだとして、レイはこれからどうしたいのですか?」

「俺?」

レイは改めて問われ、どうなんだろう?と腕を組みながら考えはじめた。やや暫くの沈黙が続いた後、レイの口から絞り出されるようにぽつぽつと言葉が出始めた。

「……俺は……こういう事……カイが初めてだから…………」

(「エッ、初めてだったノ?」)

…などとはとても言い出せる雰囲気でなく、マックスはレイを凝視したままカップを口に運んだ。

「…でも…カイは…………その……だから……満足してないのなら………」

カップを握り締めるレイの両手に力が籠もる。

「…ちゃんと…カイの喜ぶようなことがしたい…」

言い終わるや否や、いたたまれなくなったのか顔を伏せたままストローに口付け、中の液体を一気に飲み干した。

「…なるほど、カイの喜びそうな事ですかぁ…」

「ボクにいいアイディアがあるネ!!」

パチンと指を鳴らし、マックスが叫ぶ。

「本当かっ!?」

「本当ですかマックス?心当たりがあるんですか?」

「心当たりっていう訳じゃないケド、きっとカイは喜ぶと思うヨ!ちょっと用意してくるから待っててネ~」

それだけ言うとマックスは席を立ち、一目散に店の外へと飛び出して行った。

「何でしょうねぇ?」

「何だろうなぁ?」

事態が飲み込めずキョトンとする二人。

「…ま、まぁマックスのことですから、なにか当てがあるのでしょう」

「……そうなのか?」

「よっ、『用意してくる』って言ってましたから…どうなんでしょう?」

「……うーん」

考えても埒が明かないので、とりあえずマックスの帰りを待つことにし、レイは追加の注文をするためカウンターへ向かった。

いくつかのセットの中から1つを選び、注文してから数分後に用意されたトレイを持ちテーブルへ戻ると、そこには既にマックスの姿があった。

「あ、レイ!用意してきたヨ~~」

そう手招きするマックスの手には、なにやら紙袋が握られている。

「なんだソレは?」

「コレ?本だヨ~。この本はボクの国でもベストセラーになってたネ」

「そうですね、さきほど見せてもらいましたが、レイの為の参考書、という感じでしょう」

「さ、参考書?」

レイはマックスから本を受け取り、しげしげと表紙を眺めた。新書サイズでありながらハードカバーであり、ピンク色の表紙がなんともいえない淫気を放っているような気がした。

「コレで勉強すればきっとカイも喜ぶヨ~」

「まぁ元々が女性用なのでレイには合わない部分もあると思いますから、参考になる所もけっこうあるようでしたよ」

ふーん、と言いながらレイは本をパラパラとめくり中を見た。

「…あ、」

レイが戸惑うような軽い声をあげ、手の動きが止まる。

「どうしたノ?レイ」

「…俺、日本語の文章って、あまりよく分からないんだ」

「そ、そうだったんですか?」

「そうナノ?」

レイは世界各国を一人で旅していたということもあり、語学は堪能だと思い込んでいた二人であった。

「ああ。会話なら大丈夫なんだけど、読み書きがあまり得意じゃなくて…」

言いながら本を閉じ、謹んでマックスに返却しようと出しかけたレイの手を、二人の両手にがしっと掴まれる。

「大丈夫、ボク達がちゃんとサポートするネ!」

「マックスの言う通りです。それにさっき見せてもらった限りでは、この本はかなり簡単に書いてありますから、レイにもわかりやすいと思います」

「わからない事があっても3人いれば何とかなるネ」

「そうですよ。それにこれは全てカイのためなんですよ?」

カイの名前を出され、はっとなる。読み書きが不得手などと言って、都合の悪いことから逃避しているだけの自分。

もう逃げないと心に決めた筈だったのに。

「みんな……ありがとう。…できるだけやってみる!」

「それじゃあ、早速お勉強といきましょうか」

「そうダネ~」

「おぅっ!」

こうして、ファストフード店の一角で、参考文献によるレイの猛勉強が開始された。



☆☆



「序章は必要ないようですね」

「1章と2章は後で軽く読んでおけばイイと思うヨ。あ、3章のこの辺とか大事じゃナイ?」

「んー?どれどれ……『ペニスの扱い方』っ!!?」

「あああああっ!声が大きいですレイ!」

「すっ、すまんっ!」

「そういえば、普段はカイのをどうやってるノ?」

「…えっ?…えぇぇぇっ!?」

「…そんなに驚かなくてもいいじゃナイ」

「そうですよ。それに、正しいやり方じゃないから、カイが満足できないのかも知れませんよ?」

「……正しいも何も……その……触ったことがないし…」

「えぇぇぇぇっ!?」×2

「そっ、そんなに驚くような事なのか!?」

「だって、カイと…その…Hしてるんでショ?」

「ですよねぇ。それなのに…」

「いや、そうじゃなくて…カイは俺が触ろうとすると…その……嫌がるんだ」

「えぇぇぇぇっ!?」×2

「な、何故でしょう!?恥ずかしがっているんですかねぇ?」

「カイがそんなオクテだとは思えないネ」

「う~ん」

「…まっ、まぁ、ではこの辺をレイにはよく読んでおいてもらうことにしましょう。他の部分はどうですか、マックス?」

「そうだネ……4章は全部大事カナ?」

「4章4章っと……えーと『オーラルの楽しみ』……?なぁ、オーラルってどういう意味だ?」

「わたくしのパソコンの辞書では『口頭の、口の』という意味の形容詞だと出てきますが…?」

「二人とも知らナイ?最初の部分を読めば意味がわかると思うヨ~」

「えーっと、なになに…『男性にとって、ペニスをしゃぶってもらったりなめてもらうほど気持ちいい事はありません』…えええええっ!!」

「だから声が大きいですってレイ!」

「すっ、すまん!つい…」

「つまりは、そういうことネ。レイはカイにシテもらった事はあるノ?」

「えっ!?えぇっと……………あ…ある…かな…?」

「それなら、レイにもわかるでショ?気持ちヨカッタ?」

「…えぇっ!?………う、うん……」

「それと同じことをカイにしてあげればいいだけネ~」

「うーーー」

「上手なやり方とかが書いてあるから、ちゃんと読んでシテあげるとカイ喜ぶヨ~」

「う…それじゃぁ読んでみる」

「オッケイ!ちなみに英語だとこういう行為のことを『Oral sex』って言うネ」

「へー。マックスは色んなことを知ってるなー」

「あぁっ!私の辞書で意味を引こうとしたら『Oral sex:オーラルセックス』としか出てきません」

「使えない辞書ダネー」

「大きなお世話です。それでは、3章4章のあたりを重点的に読んで行きましょう」

「3章…『扱い方』のあとは…『ペニスを愛撫する(応用編)』………!?」

「具体的なやり方の説明みたいですね」

「ちゃんと覚えてカイにシテあげるんだヨ?レイ」

「うぅ~~~」



Θ



こうして、ひととおりの勉強が終わるころには、店内の人影もまばらになり、夕闇があたりを支配しはじめていた。

「ありがとうみんな。すっかり遅くまで付き合わせてしまって悪かったな」

「どういたしまして」

「あとはレイの努力次第ネ!」

ああ、と笑いながら答え、レイは一目散にカイの住むマンションへと向かって駆け出した。



Ю



マンションの前へ到着したレイは、手慣れた手つきで4桁の暗証番号を入力すると、シュッと音を立ててマンションの入口ゲートが開かれた。

エレベータに乗り、目的のフロアへ到着するまでの時間がとても長いものに感じられる。

(カイは…優しいから…不満に思ってても口に出さないから…)

ぎゅっと本を握りしめ、決意を胸に。カイの部屋まの前まで来たレイは、ポケットの中から部屋の合鍵を取り出した。

(まさか、使うことがあるとは思わなかったけど…)

以前からカイに渡されていた部屋のカギ。カイが居る時じゃないと部屋には行かないから大丈夫、そう言っていたにも関わらず、半ば押し付けられるように受け取ったものである。こんな時に役立つとはレイ自身も思ってはいなかった。

ガギを鍵穴に差し込み、ゆっくりと回すと、カチャッと小さな音を立てて戒めが解き放たれた。

(…おじゃまします)

そーっとドアを開けると、部屋の明かりが付いたままの室内で、カイがソファーに座っているのが見えた。

室内に入り、後ろ手でドアを閉めカギを掛けると、足音を立てないようにゆっくりとカイの元へ歩み寄る。

カイは一人掛け用のソファーに腰掛けながら、規則正しい寝息を立てていた。

レイは持っていた本をテーブルの上に置き、ソファーの前に腰を下ろすと、カイのズボンの両脇に折り曲げた手の先を差し入れ、ゴムの部分を掴み、ぎこちなく引き下げようとした。

カイの腰が自然と浮き、レイの作業を助けにかかる。

どうにかズボンがトランクスごと膝近くまで引き下げられると、えいとばかりに一気に取りはらい、傍らへ丸め置いた。

(………!)

レイはむき出しになったカイの下半身を直視し、生唾をゴクリと飲み込んだ。

まだ硬くもなっていないカイ自身は、既に自らと同程度の大きさをし、存在感を露にしていたのである。

(…これが、カイの……)

レイはゆっくりとカイの肉茎に手を伸ばし、触れた瞬間、ビリッと電流が走るような衝撃を覚えた。

レイは戸惑いながらも、両手で上を向かせると、頭をカイの股間へ埋めるように近づけていった。

「ん……」

小さくとがった鼻先が陰茎を傍らに押しやる感じに触れてきた刹那、カイから漏れるようなかすかな声が聞こえてきた。

レイはさらに唇を開いて肉棒の根元、陰嚢との境い目あたりに押し付けていく。そして歯のあいだからちろっと舌を突き出し、唾液に濡れたその先端でたるんだ皮膚をくすぐり回し始めた。

初めてとは思えない舌と唇の巧みすぎる刺激に、カイのソレはたちまち反応していった。充血してそそり勃つ肉茎に頬をすりつけるように首を軽くかしげながら、レイは押しつけた唇をなおも揉み動かし続ける。さらに陰嚢の表皮を軽く吸い付ける風にしては、唇のあいだにはさみ込んだ皮膚を舌先で丹念にくすぐり回す。

突然、カイの両手がレイの後頭部に触れてきた。

「うわっ!?」

思わずカイの肉棒から口を離し上を向くと、さっきまで寝ていた筈の人物がじっとレイを見つめているのに気がついた。戸惑いながらも心なしか口元が緩んでいるような気がする。

「いっ、いつから起きていたんだっ!?」

「玄関のカギが開く音が聞こえた時からだな」

「だからって寝たふりなんかしなくても…」

「合鍵を渡してるのはお前だけだが、音もたてずに入ってくるから変だと思ってな」

「うぅっ」

「それに、今朝のように目が合った途端逃げられてもかなわん」

「う~~~」

「しかも、まさかこんなことをされるとは夢にも思わなかったからな」

そう言いながら、カイはレイの髪を繰り返し撫で回した。

怒っている訳ではないと感じたレイは、そそり勃つカイ自身へ再び口を這わせ、首だけを突き出した体勢のまま唇を陰嚢から硬直の裏側に這わせ、あわせて舌をも小刻みに動かし始めた。

「くっ!」

やがてレイの細くとがった舌先が亀頭冠の溝をほじるようにこすり立てだすと、カイは鋭い快楽感に思わず息をつめて声を漏らし、体をピクッと震わせた。

瞬間、唾液に濡れた陰茎がきゅっと吊り上がり、病むような疼きにつれて尿道口から透明な液体がにじみ出てくる。

「ふぅっ…ん……」

仔犬の声のように鼻を鳴らしながら、レイはいったん顔を離すと小さく息を吸ってから唇を目一杯に開き、亀頭部をすっぽりと口の中に含んでいった。

薄い唇を亀頭の溝にはめ込むように当てながらしばらく揉み動かし、舌の裏でしみ出た先触れの液体を軽くこする感じに舐めとっていくにつれ、カイの背中をびりびりと、痺れるような愉悦感が素早く貫いていく。

「ふぁっ……」

カイの手で無意識に髪をきつく掴み上げながらも、レイは行為を中断しようとはしなかった。さらに頬をすぼめ、熱い塊をずずっと一気に喉の奥まで吸い込んでいく。それと同時にレイは、両手の先を下から陰嚢にあてがって、やわやわとさすり回し始めた。

「……ぐふっ!」

自ら喉の奥に異物を突き入れる動作、レイにとっても初めての行為に、何度もむせて苦しげな声を漏らしつつ、懸命に頭を振り動かしてカイ自身を深々と吸い立て、ぬるりとした舌で裏側を激しく舐め回し続ける。

「レ、レイッ……」

カイにとっても初めての経験に、かえっていつもより早く昇りつめようとしていた。下腹部がひくひくと痙攣気味に動きだし、陰嚢の中身が痛いほどに吊り上がっていく。

「ん……」

声をかけられて絶頂が近いと知ったレイは、より一層激しくカイの肉棒を吸いだした。唾液と分泌液で濡れた亀頭を舌でくすぐり、押し、こね回して絶え間無く刺激を加え続けた。

「……ぐぁぅっ!」

上ずった、悲鳴にも近い声を発しながら射出の時を迎えるカイ。

その寸前、カイはレイの髪を掴んでいた両手を緩めて両側から頭を掴み直すと、引きはがす感じに持ち上げ、唐突な所作に戸惑うレイの口から、脈打ち出した硬直を無理やり引き出した。

「うわっ!?」

次の瞬間、最初のほとばしりが宙を走ってレイの顔を打った。

反射的に瞼を閉じたレイの右頬に濃密な体液が噴きかかり、さらに勢い余ってこめかみから、耳のすぐ上の頭髪を掴んだカイ自身の左手までをも濡らしていく。

「うっ…くぁっ!」

低いうなり声をあげながら、カイは射出から逃れようと必死にもがきだすレイの頭を、力任せに両手ではさみつけてがっしりと押さえ込む。

肉茎の痙攣につれ次々に吹き出す射出は、続いてレイの鼻から唇を、さらに紅潮した首筋をつたってレイのチャイナ服へと染み込んでいき、到達した場所へ水濡の跡をいくつも作っていった。

「ふぅっ……」

大量の白濁液を放ち終え、カイはレイの頭を両側からきつく掴み上げていた手から力を抜いて自分の膝に載せると、ゆっくり深い息を吐き出した。

レイの方はまだ何がどうなったのか理解しきれない、といった風に呆然とした表情のまま、しきりに瞼だけを動かしてすぐ目の前の、先端から余滴をしたたらせて急速に萎え始めたカイ自身を、見るともなく眺め続けるばかりである。

「大丈夫か?レイ」

カイに声をかけられ、昼間のマックスやキョウジュとの会話が思い出された。



---



「ようやく4章も最後ですね」

「……『161.終わってから口にいれる』……??」

「『彼がクライマックスを迎えた後、そっとペニスを吸う』…って、書いてある通りの事だネ」

「でもカイにはどうですかねぇ?」

「どう、ってどういう意味だ?キョウジュ」

「本当にカイはそれで喜ぶのか、という意味です」

「ンー、それはわかんないケド、カイがシテほしいようだったらそう言ってくるんじゃナイ?」

「カイはそんな素直じゃないような気がするけど…」

「だから、カイの言葉をよく聞いて考えた方がいいと思うヨ?カイのことを一番よくわかってるのはレイなんだカラ」



---



本に書かれていた通りなんだなと、驚きにも似た感想を抱きつつ、レイは自分が”次の行為”を求められているのを悟った。

尤も、カイに言わせれば甚だレイの勘違いというか思い込みである、と頑なに否定するであろうが、レイはカイの言葉を「(次の行為を行うのは)大丈夫か?」という意味で認識していた。

レイは一瞬だけ戸惑うそぶりを見せながらも、すぐに再び顔だけを股間に埋めると、ためらいなく粘液に汚れた肉棒を口の中へと含み直していった。

「レ…レイッ…!」

カイ自身は放出を終えたばかりで、この上なく敏感になりきった器官を続けて刺激され、激しい掻痒感に似た知覚に神経を苛まれて無意識に目を閉じながら、震える声でレイの名前を呼ぶ。

レイは口の中で頬をあぐあぐと動かして肉茎に唾液をまぶしつけ、舌と上顎とで丹念にこすり回してから、小さく喉を鳴らした。そしてもう一度同じようにしてから、完全に硬度を失ったものをゆっくりと引き出した。

次に濡れていない腕の部分で自分の顔や首を不器用に拭うと、唇をつけてこびりついたカイの粘液を舐めとる作業を繰り返していく。

指でこするようにはうまく拭き取れないのがもどかしいのか、せわしなく同じ所作を続けて「うぅ~」と苛立たしげな声をしきりに漏らすレイの姿が、猫の動作を連想させ、カイの興をそそった。

「…そうしてると、まるで猫みたいだな」

「なっ!誰が猫だ誰がっ!」

ククッとわざとらしく笑い顔を作りながら、レイを見やる。

「ああ、すまん。満足に顔も拭えないような奴は、猫以下かもな」

「カイ~~~!」

「ほら、バカ猫。洗ってやるから風呂へ行くぞ」

カイはそう言いながらレイの両脇に腕を差し入れ、立たせるとそのままの姿勢で浴室へと連れて行った。








浴室で立ちながら身体を洗われる最中、さきほどの行為の理由を問われたレイは、顔を真っ赤にしながら、昨夜の行為からカイの表情にまで順を追って番説明した。

「それで…俺は…その…カイがあんな表情をしたのは…カイが満足してないと思ったから……」

まさかあの表情を見られ、気にしていたのかと、苦笑ぎみに思い出しながら、カイはレイの身体を抱き締めた。

「それで…だから…カイに満足してもらいたくて…」

カイはレイの背中をぽんぽんと叩きつつ、静かな声音でレイの耳元に囁きかける。

「それは違う。というより、俺も……その……自己嫌悪というか……お前が満足してないうちに……」

レイの身体を包み込む腕に力がこもる。

「お互い様、という事だったのか?」

カイは片手をすべらせてレイの後頭部にやると、そのまま軽く手前に引き寄せ、自分の唇をぐっと押し付けてレイの言葉を遮った。














「ちょっと待てレイ。お前、さっきの行為はどこで知ったんだ?」

「え……今日マックスとキョウジュに会ってさ、事情を話したら教えてくれたんだ」

(…あいつら~~(怒))

「ど、どうやって教わった?まさか実地か!?」

「実地ってどういう意味だ?」

「それはだな、その…実際にだな…」

「よくわかんないけど、マックスが『こういうやり方で』とか手を取って教えてくれたんだ」

「!!」

翌朝。

「待っ、待ってくださいカイ!誤解ですっ!」

「話せばわかるネ!カイ!?」

「問答無用!」

「だってカイも喜んだでショ!?」

「それより、レイはちゃんとできたんですか?カイは満足できましたかっ!?」

「貴様ら~~!!やれっ!ドランザー!!」

「うぎゃぁぁぁぁ~」×2

 

レイはカイのベッドで惰眠を貪りながら、夢の中でマックスとキョウジュの断末魔の叫びが聞こえたような気がした。

 





▲[終]

H有り無しで区別していたつもりが……(謎)
 
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